その4 くちびるに歌を
楽器ができる人、音符の読める人を尊敬する。私も夫も、何一つ楽器ができないのだ。楽譜を見てもちんぷんかんぷん。ハ長調もト短調も区別が付かない。学校で必須だったピアニカ(メロディオン?)とリコーダー、ハーモニカ、合奏で使った木琴くらいしか、さわったことがない。それもマスターしたとは言い難いレベルである。
よくテレビで、初めて会ったミュージシャン同士がセッションしたり、言葉が通じなくても音楽でコミュニケーションを図っている場面を見るけれど、本当にうらやましい。ちなみに英語もしゃべれない。
私にできる唯一の音楽は「歌」。中学生のころは、演劇部とコーラス部の両方に籍を置いていた。ミュージカル「オペラ座の怪人」にかぶれていたころは、サントラCDを頭から丸覚えして、お風呂で歌っていた。お風呂場の適度なエコーで、妙にうまく聞こえてしまい、気分はすっかりミュージカル女優。しかもソプラノ。普段は烏の行水なのに、妙に長風呂になっていたものだ。いい気分ででてくると、妹たちに「お姉ちゃん、また歌ってたでしょ」と冷たく言われる。「うまいね!」でも「すごいね!」でもなく。肉親の、特に妹の評価というものは、世の中で一番シビアだと思う。
子供たちの手がはなれたら、夫とともにゴスペルをやるのが目下の目標。実家には仏壇があるし、お盆にはお墓参りにお寺さんへ行くけど、ちょっと目をつぶっていただいて。おなかのそこから声を出して、思い切り歌うのって、そしてその声が、たくさんの人と合わさるのって、すごく気持ちがいいだろうな。
歌と言えば、長男が生まれて、あやしながらテキトーな歌を作ってしまうようになった。長男の名前を織り交ぜながら、お天気の歌、お風呂の歌、遊びに行く歌、子守歌など。もちろん楽譜など書けないから、私と夫が忘れてしまったらそれまでの、危ういメロディーである。
次男が生まれてからは、名前の所だけを変えて同じ歌を歌って育てた。
彼らは、子守歌と言えば、「まひろ(こうや)の夢は、夜の海に浮かぶ・・・」で始まるものだと思っているし、雨が降れば小さな傘を差しながら「雨こんこんこんこん、遠い空から遊びにやってきた・・・」と、自然に歌う。なんだか、幸せなカンジ。将来、彼らが結婚して子供ができて、その子供に歌った子守歌を聞いた奥さんが「その歌、なあに?」なんて不思議そうな顔をしたりして。そして、孫が同じ歌を口ずさんでくれたら・・・ちょっと、感動的ではないですか!
ちゃんとした歌のかたちにはなっていないけれども、普段の会話でも妙なフレーズを作ってしまい、それが子供に予想外に受けてしまうこともある。
次男のトイレトレーニングの時、気の進まない彼をトイレに誘うために「おいで、おいで、ちんちんワールド!」と歌ったら長男にもうけてしまい、以来トイレに行くたびに歌ってくれる。もちろん外出先でも大きな声で。恥ずかしいことこの上ない。たった一度歌っただけなのに。
あ!もしかして「ちんちん」という言葉には、ある年齢の男の子に何か特殊な効果があるのかも。新発見か?!とは言っても、活用は難しいだろうな。CMも、NHKの子供番組でも放送できなそうだもんね。
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◇後日談
長男の仲間内で、密かに「ちんちんワールドの歌」が広まりつつあるらしい。小学校の男子トイレで、歌いながら用を足しているとか。恐るべし「ちんちんワールド」!
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