上々日常 日々の色々を衣絵がテキトーにつづります。関係者のみなさま、笑ってユルシテ。
その1 家事のゆくえ
 

その13 おばさん化!?

 かつてデザイナーとして勤務していた会社には、お掃除をしてくださるおばさまがいた。
 優しく気さくで、デスクの間を回ってゴミを回収してくれるときに、よく世間話をしたものだった。
 当時デザインルームと呼ばれた私のいた部署では、Pというブランドの服を愛用していた人が数名いた。フリルとレースを多用したデザインで、ふわふわのソフトソバージュのロングヘアが似合うスレンダーな方専用、というタイプの服である。スカートのウェストの左右から細いリボンを垂らし、それが歩くときに後ろになびくのがかわいかった。
 そのリボンを、お掃除のおばさまは
「あらあら、ほどけてるわよ〜」とほがらかにいって、結んでくれちゃうのだ。
 たしかに、小さな女の子が着るようなワンピースには後ろでリボンをきゅっと結ぶデザインの物も多い。でも、これは違うのに・・・。親切からやってくださるのがわかるだけに、誰も本当のことが言えず、「あ、すみませ〜ん」とうけながし、ほとぼりが冷めたころにほどいているシーンを何回も見た。
 かすれるようになったから捨てたマーカーも、試し書きをしてみて、少しでもインクが出れば「まだ書けるわよ〜」と拾い出してくださる。ありがたいような、そうでもないような・・・。この場合もやはり、「ありがとうございます〜」と言って受け取り、後日あらためて目立たないような配慮をして捨てていた。

 世のおばさま方には、確固たる自分基準があるように思う。そこからはずれた物に対して、注進したくなる性質があるように思う。
 私も過去に何回も、おばさまのご注進に助けられたことがある。
 成人式の晴れ着で歩いていたとき、後ろから駆けてきて「足袋のコハゼがはずれてるわよ」と教えてくださった上、かがんではめ直してくださった方がいた。
 ロングコートの裾についたままだった、クリーニングタグを教えてくださった方がいた。
「あなたがイマドキの子だったら、教えてあげないところだったんだけどね」そのおばさまは言った。「小さな子を、にこにこしながら見てたでしょ」・・・私は表情までチェックされていたらしい。
 各種ある冷凍シュウマイから、オススメのひと品を教えてくださった方、旅先で友達の写真を撮っているときに、「撮ってあげるからあなたも入りなさいよ」と言っていただいたこともある。
 その全てがおばさまであった。
 おじさまは、皆無。シャイなのであろうか。

 そ・し・て・・・「それ」は私にも現れつつある。
 中学生から高校生の男の子が、ズボンをづりおろしてはいているのが気になる。
 かかとをつぶしてはいている、ローファーが気になる。
 自転車に乗りながら食べている、お菓子の包装のゆくえが気になる。
 病院の待合室で、看護婦さんに呼ばれても、ゲームをしていて返事をしない小学生を見たときには、叱ってやりたい気持ちを抑えるのが大変だった。実際、すぐ隣にいたら「お返事は!?」と言ってしまっていたかも知れない。幸いにも彼は、私からかなり離れた場所に座っていたので難を逃れた。
 ある時、美術館のミュージアムショップで、修学旅行らしき中学生の男の子がポストカードを選んでいた。バラバラと取り落としたカードを拾って手渡しても無言だったときには、思わず「何て言うの?」と言ってしまった。きょとんとする彼に畳みかけるように「拾ってもらったら何て言うの?」・・・別にお礼が言われたい訳じゃないけど、何か間違ってるでしょ?と伝えたくてつい言ってしまった。自分の子供に言うみたいに。

 ああ、もうこれは完璧「おばさん化」・・・。たぶん誰にも止められないだろう。せめて、私の中に芽生えつつある自分基準が、世間様からそうはずれずにいられるように、日々精進いたしましょうか・・・

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